【ダレン・ダモンテさんの陶芸作品】2002.2.1


 私には、いろいろお気に入りがある。それらは、日々の生活の中に潤いを与えてくれたり、喜びを与えてくれる。

 毎日使う食器も そのひとつだ。
 ダレン・ダモンテさんというアメリカ人の陶芸作家に出会ったのは、もう10年以上前になるだろうか。最初の出会いは仕事だったが、その出会いが作品に出会う機会を生んでくれた。
 最初に出会った彼の作品は信楽焼きで、一目見ただけで惚れ込んでしまった。
 「日本人の作る信楽焼きより信楽焼きらしい」というのが瞬間的に抱いた感想だった。

 そのころの私はまだ若く(と言っても30代半ばだったように思う)、10年近く、展覧会やイベントが主だった仕事だったこともあり、いろいろな焼き物や絵画、作家、ヒトに出会う経験だけは積んでいた。そのせいか、本人はまったく自覚していなかったが、口だけはうるさいらしい。

 今でも うっかり喋らすと怪しい薀蓄(うんちく)をタレるので、喋らさない方がいいみたいだ。
 私の美的センスについては、私独特のものであるのは自覚しているが、揺るぎのない自信を持っている。ヒトがどう思おうと、何と言おうが、自分が美しいと感じ、気に入ったらいいのだ。そして、作品にはヒトが出ると 頑なに信じている。


 話をもとに戻そう。
 信楽焼きは伝統的な焼き物で 何代誰々という有名作家がおられる。一般には「たぬきの置き物」が有名だが、生活食器の信楽焼きは、思わず使ってみたくなる「うつわ」がたくさんある。ただ、登り窯で焼かれたものは、庶民の手の届きにくいお値段でもある。

 なぜ、彼の作品が気に入ったか。
 いきなりグイっと惹き付けられたとしか言いようがない。敢えてコトバで表現するなら暖かさだろうか。実際に生活食器として使っていると、使うたびに掌に暖かさが伝わってくる。そういう「うつわ」に巡り会うことは少ない。気に入って購入しても、暖かさまでは、なかなか伝わってこない食器が大半である。

 見た目も暖かい。作品の形状にもよるのだろうが、窯で作品を重ねて焼くとき、重ねる作品に土をかまして焼かれるそうだ。焼きあがった時、それは目跡(めあと)と呼ばれる。出来あがった作品に柔らかな白っぽい丸い跡が残る。それも作家のセンスだ。私はその目跡に、言うに言われぬ ほのぼのとしたものとセンスの良さを感じる。目跡も作品の良し悪しを決めると言っても過言ではないと思う。

 最初に手に入れた作品は小鉢1つだった。でもお高い。当時は勤めていたから、そこそこのお値段にも手が出せたが…。

 最初の作品購入後、どうしても欲しいと熱望していた大皿と取り分け皿の制作を依頼した。その作品を焼かれる時に呼んでもらい、登り窯を目の前に、薪割り体験をさせてもらったことがある。

初体験の「薪割り」はとても楽しかった。危なっかしい私の様子は、薪を割らずに、足を割るのではないかと周りの方々の肝を相当冷やさせたみたいだ。斧は薪に当たらず、空振り。
 薪割り台の端っこに斧がささる。かなり危ない。次々に手取り足取りのアドバイス。薪割りに慣れたころは、しっかり手にマメができていた。この時に流した汗は爽快で、楽しい想い出の一つとなっている。
 登り窯に使用する薪の量は半端ではない。何人ものボランティア?が集まり、薪割り作業に交替で励む。酒盛りもあるが…。

 登り窯の1回の使用料は60万円だそうだ。薪代もバカにならない。「信楽焼きの土」そのものも高いらしい。 そういう訳もあり 登り窯で焼いた信楽焼きはお高いのだ。創る方も大変らしい。

 そして、熱望した大皿と取り分け皿は出来あがり、我が家の家宝となった。ただ、大皿は食器棚に収納不可能であり、以来、装飾品の「お気に入り」として、花台になったり、流木や石を飾ったり、生活の潤いとして毎日、目に触れている。食器棚にしまわれたままよりは、きっと作品も満足してくれているはずだと自己満足。
 その後も徳利やぐい飲み、装飾用に灰被(はいかつぎ)の大徳利などがお気に入りに加わっていったが、諸々の事情で、個展会場に足を運ぶ機会が途絶えていた。

 昨年末に作品展の案内状が来た。少し体調が回復していたので行ってみることにした。
 ところは、三重県上野市白樫町。三重県ということで「遠い」と思い込んでいたが、大津からは2時間弱で行けるところだった。

 「Yellow House」と名づけられた会場は、のどかな田園風景と木々に囲まれ、少し向こうは山か森か、なんとも羨ましい環境の木造りの家で、彼の自宅だった。
 家の外観は黄色く塗られ、それが「Yellow House」の名前の由来かなと勝手に想像した。玄関には「来る者拒まぬ」とダレンさんによる墨書が掲げてある。

 この作品展はアフガニスタンの支援に自主的に協力される趣旨で開催されており、私は、作品は買えないまでも、ほんの、ほんの少しだけカンパをして帰るつもりで出かけた。でも、作品を見たら、やはり欲しくなってしまった。
 この日は、なんと「量り売り」もしておられた。とても気に入ってしまった作品が3点。ダレンさんは 太っ腹にも それも量り売りでいい と言ってくださった。
 普通なら、安く見ても1つ3000円はくだらない作品だと思う。それをほとんど1つ分の代金で3つわけていただいた。
 中でも初めて目にし、とても、とても気に入って手に入れた 肌合いの黒い作品が、どうして造られるのか、好奇心旺盛な私はあとから電話で聞いてみた。

 「炭化」という手法で焼かれたそうだ。
私の「これどこの土?」という質問に、ダレンさんは「ここらへんの土」という傑作?な回答。
 ガス釜の中の一角にレンガで別の囲いを作り、その中で炭の中に作品を埋めて焼く という手法らしい。読者の方に、正確にお伝え出来ているかどうかは少々不安だが。
 何焼き?とダレンさんに尋ねたが「……」。即答を得られなかったので、私は「ダレン焼き」と命名した。

 持ち返った作品は、その後食卓で活躍。手にする度に「暖かさ」が掌に伝わり、食事が楽しいものとなっている。

 生活の器に少し贅沢をすることで、毎日の食事に潤いが加わる。食材は特売品だが、器もご馳走の一部。毎日使うものこそお気に入りがいい。
 
 また、新しい ダレンさんの作品に出会う日を楽しみに。