【愛猫・大亮(だいすけ)回顧Vol.2】 2001.7.8

 二人で生活を始めてしばらくして私は風邪をひいた。
 私は風邪のつもりだったが、勤めていた会社の診療所で血液検査の結果、猫アレルギーと判明した。

 「猫捨て」と看護婦さんに言われたが、そんなことできるはずがない。かわいい、かわいい私のニャンコ。
 アレルギーとわかってから(猫の毛がイケナイと聞いたので)、大亮(だいすけ)に「頼むし足元で寝てくれるか」と頼むと、彼はその日から、就寝時は腕枕や枕モトに忍び込むのをやめてくれた。

 自慢できないことであるが、私は出したその手でモノを片付けることが出来ないというより、しない人間である。モノグサなのだ。しかるに部屋は乱雑を絵に描いたようなものになる。朝、掃除をしたとしても、夕方には元の木阿弥状態に近くなるといったタイプの人間である。

 大亮が始めて来た日は、たまたま「キレイな部屋」の日だったが、刻々と部屋の様相は変化していく。私はモノをよけて、または、モノをまたいで部屋を行き来する。大亮も真似をする。賢い猫じゃ。

 ところが、ある日、私が寝転んでいると、私の上には平気で這いあがってくるし、乗り越えて通過もしていく。これにはおそれいった というか、なんというか。
 部屋に乱雑にちらかっているものはご主人の真似をして避けて通っても、私はかまわないらしい。私の胸の上で寝ることもある。二人でごろ寝。のどかである。

 軽いうちはよかったが、彼は後には5キロという巨大猫に育っていったのであった。
 家の中で猫を飼うのなら爪を切る ということを猫専門店で聞いてきた。猫用爪きりも買い、ノミ取り櫛も飼ってきた。尿の臭いがすごいので、臭いを吸収し固まる砂も買った。結構な物入りだ。当時、給料の3分の1が家賃だったので、この扶養家族の経費もバカにはならない。
 でも猫はかわいい。猫好きのヒトはきっとわかってくれると思う。

 ま、もともとお気楽なところもあったので、ひたすら猫っかわいがりの日々であった。
 さて、ノミ取り櫛を実際に使う日のことである。バカな私は新聞の上でそれを始めた。大亮は私にお尻を向けて動かずにじっとして座っている。ノミは出てくる、出てくる。しかし、新聞の上である。ノミが見つけられない。
 出てきたノミを爪で潰すのだが、また大亮に戻っていった輩も多いと思う。この日の学習で、以後、この作業は白い紙の上ですることになり、作業名は「毛を梳くこと」から「ときとき」と呼ばれ、彼は「ときとき」を理解した。仔猫相手ではなんとなく赤ちゃん言葉になってしまう。

 始めての爪きりも緊張した。寝ている間にする ということを教えてもらってきたので、大亮が寝ている間に そっと肉球を押し、爪を出して切る。どのあたりで切るのか、鉤状に曲がったところ と聞いたのでその通りにした。前足はうまくいった。しかし、後ろ足で失敗をしてしまった。うっすらと血がにじんできた。私はしっかり怖気づき、大亮にひたすらゴメンナサイを言った。
 それ以後、後ろ足には手を出さなくなったが、大亮は後ろ足の爪は自分で噛んで短くするようになった。猫も家の中にしかいないと爪がじゃまなのか。ほんまに賢い猫じゃ。


【愛猫・大亮(だいすけ)回顧Vol.1】 2001.7.6


 仔猫がやってきたのは、昭和61(1986)年の秋だった。お母さん猫は繁殖用に飼われていたペルシャであったが、飼い主の目を盗んだ自由恋愛の結果、もらい猫を出す羽目になった。
 飼い主にとっては、いらない仔猫だったのだ。毛足の長いキジトラ風の猫で、両手に乗るくらいの大きさになったころ、私のところにやってきた。

 深く考えないでコトを起こすのは今に始まったことではない。
 勢いで猫を飼うことになってしまった。名前は「大亮(だいすけ)」、自分の名前の一字をつけてみた。

 やってきた日に不思議なヒトコマ。
 アパートの部屋で、大亮と向き合う。かわいい、かわいい仔猫だ。大亮が、ふと上を見上げる、そして私を見、また上を見上げる。まるで自分の視線の方を見ろ と言わんばかりであった。
 そこには、食器棚があって、その上に置いていた潰れたオルゴールが、どうしたことか回りだし、今にも落ちる寸前であった。落ちていたら、私のアタマの上。大亮に「ありがとう」を言い、2人の生活は始まった。

 さて、どうやって飼うのか?餌は?
 本屋に走り、猫の飼い方の本を2冊買い、読み、読みながら仔猫と遊ぶ。仔猫は遊んでもらうのが大好きらしい。

 始めから賢い猫だとは思っていたが、爪研ぎ場所も私がここと決め、大亮の腕を持って、「ここで爪研ぎ」と教えたところ以外では決してしなかった。
 私が食べるものはなんでも欲しがった。漬物、果物、肉、刺身。中でも、さすがに肉食獣だけあって、肉、刺身の食いっぷりは仔猫でも一目置く という風情があった。私はその日から、肉、刺身を自分の食卓にはのせないようにした。この食いっぷりで、美味しいものを覚えたら財布がついていかない。

 面白かったのは豆腐である。味噌汁の具の豆腐をどうしても欲しがる。「これはあかん、熱いし」と言っても欲しがって鳴き止まない。で、ふーふーと冷ましてからやったが、中まで冷めてはいなかった。
 さすが猫舌。「ふみゃアッ」と吐き出す。

 「ほらみてみぃな。食べられへんさかいにあげへんかったんや」というコトバを理解したのか、その日を境に「これはアカン」と言ったモノは欲しがらなくなった。

 大亮は一人になるのが淋しいらしく、私が家にいる間は、どこにでもついてくる。二間しかないアパートであるから、見えなくなるのはトイレとお風呂しかない。
 大亮が来てから、私はトイレもお風呂も大亮の監視下におかれることになった。

 しかし、好奇心の強い猫であるから、私が座ったトイレにフワリと飛び乗ろうとした。あわや便器に突っ込む寸前に拾い上げた。私の反射神経も大したモノである。
 お風呂は縁に飛び乗ったものの足が濡れるのはイヤなようで、用心してはまることはなかったが、出ていこうともしなかった。

 寝姿には驚き桃の木さんしょの木であった。
 「猫が人間の腕枕で上向きに寝ている」。猫がウワムキに寝る、腕は布団にちょこんとかけて。私が腕に重さを感じて目覚め、その原因に気付いたらいっぺんに目が覚めた。しかし起こしてはかわいそうな気になり、そのままじっとしていた私であった。なんとも憎めないかわいい姿だった。